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整理整頓の技術で社会をエコに〜駒井愛上さん

「人間と環境との調和」を目指す活動としての「エコな活動」

「エコ」というキーワードから、あなたはどんなことを想像するだろうか?たとえば、地球温暖化問題や循環型社会のようなテーマを想像する人は多いのではないだろうか。そのため、「エコな活動」というと、環境負荷を下げるような活動や、自然保護運動のようなことを思い浮かべられがちだ。なんだか、とても大きくて遠い世界のことのように思える。国家や大企業がやるものでありこそすれ、一般市民である私たちにはほとんど関係ないことのように思えてしまう。

 

しかし、本来エコロジーとは、「生態学」つまり「人間と環境との相互作用」を意味する言葉である。その意味では、「人間が環境といかに調和するか」というテーマに関わる活動は、「エコな活動」だといえよう。

 

今回紹介する駒井愛上さんは、「整理収納アドバイザー」としての知恵と技術で活躍される市民活動家だ。整理収納。一見すると、エコとはあまり関わりがなさそうに思える。しかし、彼女の活動は、そんな私達の狭くなった視野を拡げてくれるものである。

最も身近な「エコな活動」としての「整理整頓」

駒井さんは、パートナーと共に「アーキテクト芳夢」という建築リフォーム会社を営む「整理収納アドバイザー」である。

 

整理収納アドバイザーとは、一般社団法人ハウスキーピング協会の認定する資格である。同協会のホームページによれば、この資格を持つ専門家は、片付かない原因や問題点を見つけ出し、それを根本から解決することで、身のまわりの環境改善に貢献するものであるとされる。たとえば、不必要な物を手放す、形を整えて空間を効率的に使う、ムダの出ないようなものの使い方を知る…。こういった整理収納アドバイザーの提案する暮らしは、身の回りの環境を改善し、人々と身の回りの環境との調和を実現するものであるといえよう。まさに「エコな活動」ではなかろうか。

 

ものが散らかる、片付けられない、ということは実はとても身近な「環境問題」である。あまりに身近過ぎて、大きな話に見慣れた私たちはうっかり見過ごしそうだが、エコというのは本来身近なものであるはずだ。自然保護も環境負荷の軽減も、具体的に私たちにできることは何かと考えれば、ゴミの分別とか庭の植栽の管理といった意外に身近なところに落ち着く。整理収納もその一つだ。(そもそも、ゴミが分別できるというのも、整理整頓の技が必要とされる分野の一つではないか)

駒井さんの哲学…整理収納とエコ

前述のとおり,駒井さんはリフォーム会社も営んでいる。そこで耐震改修などの工事をしていて,高齢者の共通点として,「とにかくモノが多い」ということに気づいたという。「モッタイナイ」「壊れてないのでまだ使える」「いつか使う」「○○さんからいただいたモノだから」…ものが多くなる理由はたくさんある。思い出を大切にすること自体は,決しておかしいことではない。しかし,駒井さんは,「モノを大事にする,のと,いらないモノまで溜めておく,のは訳が違います」と語る。実際に,そういって溜まったモノが,必要な工事の妨げになるとすると,問題になってくる。

 

「それで、私がお客さまのお宅を工事前にお片付けしようと思ったことが整理収納アドバイザーになったきっかけでした」という。

 

モノを溜めることは,環境にも負荷が大きい。

モノを溜める人は,そうして多くなったモノを,どう溜めていくのだろう?駒井さんに聞いてみた。

「簡単に言うと,自宅で今すぐ使わないものは隣の倉庫に置いていきます。今すぐ使わないけど、いつか使うと思って、倉庫にドンドン置いていきます。やがて倉庫も満杯になると、今度は2つ目の倉庫を作らなくては…ということになります。でも,倉庫を作るより、倉庫のいらないものを片付ける方がエコではないでしょうか?」

 

ここでいう「エコ」は環境(エコロジー)だけでなく,経済(エコノミー)ともかかっている。なるほど駒井さんの哲学は,整理収納の知識が,身近なエコを実現することにつながるということを示唆している。

整理収納の知識を広めるため,楽しく学べる機会を作る

駒井さんはその知識を広め、整理整頓ができる人を増やすために、出張講座を始めた。そのために、この春には、「整理収納教育士」という専門資格も取得した。地域のお祭りなどの人の集まる機会に出向いて、整理整頓の知識の基礎を、楽しく学べるゲームを提供する活動を行っている。

このような活動を始めたきっかけはなんだろう?駒井さんは次のように語る。

 

「私は小さい時にあまり親の家事を手伝わなかったので、自分の身の回りの整理や身支度が苦手だったんですね。私の子供にもあまり教えてあげることができなくて。でもそうすると、荷物もたまるし、部屋も汚くなってしまいます」

 

こういった自身の経験が、整理収納を学ぶ動機となった。

 

とはいえ、整理整頓はなかなか面倒なものだ。学ぼうと思ってもついサボってしまい、身につかないことも多いし、わざわざ勉強のためだけの時間を取ってくれる人も稀である。そこで、遊びながら、整理整頓の知識を学べる方法を工夫し、出張講座をすることにしたのだという。つい先日も『キッズとシニアの整理収納』と題して、東山区の金剛寺で開催された「お寺まるごとフェスタ」というお祭りの会場でブースを持ち、盛況を得た。

 

整理収納というのは、特定の世代だけでなく、生活を営むすべての人々にとって有益な知恵なので、たとえば高齢者と子供、親子など、多様な世代で共に学べるテーマだ。そのため、この講座自体が、世代間交流の機会にもなる。2016年度は、さらに出張の場所や回数を増やし、より多様な人々に整理収納の知識を広める意向だ。

駒井さんの活動が描き出す「エコなまち」伏見

駒井さんに取材をしていて、感じたことがある。しばしば、私たちは、自分が暮らす地域のことを、「誰かがやるだろう」と、他人事のように考えて行動してしまう。たとえば自分のまちの掃除をしないとか、ゴミをポイ捨てしてはばからないといったことが起こる。これはいわば、自分の暮らすまちの整理整頓をサボって、地域社会という環境と調和しそこねてしまっている、ということと言えるかもしれない。その分、自治会や町内会といった地域団体や、行政機関が手間やお金を使って、私達が知らないところで、まちをきれいにしてくれているわけだが、たとえば税金を使ってそれを行うことは、果たして効率的なのか?という疑問は当然浮かんでくる。

 

そうすると、私たちはしばしば、まちの掃除をしない人々に対して「最近の人は公共性がない!」とか「人任せでよくない!」などと憤りがちだ。だが、果たしてその憤りは的を得ているのだろうか?駒井さんの経験を省みると、もしかすると整理整頓を学ぶ機会がなかっただけかもしれない。とすると、公共性がないという見当はずれなことを言っているだけでは、状況は変わらないかもしれない。

 

このように考えた時、楽しく自分と環境とを調和させる術を学ぶ機会を提供する駒井さんの出張講座は、本人の家の中だけでなく、その周辺にあるまちの整理整頓に人々が目を向けることにも貢献するものとして、注目に値するといえる。

 

私たちが、自分たちの暮らし(それは家の中だけでなく、家の周りのまちも含めて)にある不必要な物を手放したり、地域の環境にある資源を整理して効率的に使えるようにしたりすることができるようになる時、そこに出現するものこそ、伏見エコライフプロジェクトが目指す「エコなまち」としての伏見なのではなかろうか。

 

取材先情報

取材日:2016年4月30日

問い合わせ先:アーキテクト芳夢

取材者:谷亮治

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