千両松地域エコ協議会
千両松地域エコ協議会は、京都市伏見区横大路千両松町に集まる産業廃棄物処理業者15社からなる協議会です。自主的な清掃活動などをとおして、地元の方々と信頼関係を築いていらっしゃいます。廃棄物は「ごみ」ではなく「資源」、廃棄物処理業は「静脈」ではなく社会の「動脈」なのです。
伏見工業地帯?!
伏見といえば、深草や稲荷の町並みに慣れていた私にとって、千両松町へ向かう車の窓から見えた風景は、「こんなところに工業地帯がある!?」と叫びたくなる驚きでした。
千両松地域エコ協議会は、伏見区横大路千両松町内にある、産業廃棄物処理を行う企業14社の集まりです。
京阪国道(国道1号)を南下して宇治川と交わる手前、宇治川右岸(西側)に各社の社屋が肩を寄せ合うように集まっています。
(株)京都環境保全公社にて、エコ協議会会長で光アスコン株式会社の福岡さん、日本ウエスト株式会社の三上さん、和宏産業株式会社の西上さん、京都環境保全公社の山下さんにお話を聞かせていただきました。
不法投棄が絶えなかった10年前
協議会を設立した10年前、この辺りは不法投棄が絶えなかったそうです。まるで「不法投棄地域」のように思われていたといいます。各社の社員さんが朝の清掃をする際に顔を合わせると、不法投棄のことが話題になりました。
「自分の会社の前だけやっても地域全体のイメージが変わらなければ不法投棄はなくならない。何とかしようや。」ということで、共同で地域での清掃活動が始まりました。
1ヶ月に1回の清掃活動。回収した廃棄物がトラック一杯になることもあったそうです。3年目には不法投棄も減り、今では2ヶ月に1回の清掃で十分なほど、きれいになりました。
掃除されているところを汚すのは気が引ける、それが人間の心理なのでしょうか。
地元への恩返し
「誰からともなく、14社の総意として」設立されたというエコ協議会は、完全に民間の、自発的な取り組みです。
「迷惑施設と言われ、嫌われがちな廃棄物処理という仕事を理解し、14もの企業を受け入れてくれた地元の方に「恩返しをしたい」という気持ちで始めたんです。」福岡さんはそう話してくださいました。
千両松町には、昭和60年ごろから廃棄物処理業の会社が集まり出しました。福岡さんが創業された光アスコン株式会社が千両松へ来た昭和61年(1986年)、周りはまだ田畑ばかりだったといいます。
産業廃棄物の処理施設をつくるとき、地元の同意は不可欠です。しかし今では、市街地の中で産廃処理業を始めることなど、まず住民の同意が得られないのだそうです。
福岡さんによれば、産業廃棄物処理の業界では、かつて「悪貨が良貨を駆逐する」という言葉そのままに、不適切な処理をして利益を出す悪質な業者が多かったそうです。「ダーティな業界」と思われていたともいいます。
法規制が厳格になり、悪質な業者は淘汰されてきましたが、会社を興した当時、福岡さんは社員に廃棄物を「ごみ」と言わないように、資源と考えるように言い続けました。身だしなみや言葉遣いにも気をつけて、環境の時代に合った「旬な仕事をしている」という自覚を持つように、社員教育したのだそうです。
そんな仕事への思いがあったからこそ、必要な仕事だということを理解して、自分たちを受け入れてくれた千両松町、横大路地域への恩返しをしたいという気持ちが、自然とわいてきたのだろうと思います。
4年目からは、地域の方も清掃活動に参加されています。
地元の自治会から感謝状をもらったことが、とてもうれしいことだと、みなさん深くうなずいていらっしゃいました。
みんなでやるとパワーが出る
清掃活動は、業務に支障が出ないように朝7時開始。各社から、社員さんが当番制で参加します。
若い社員さんが川の中に入って清掃することもあるんだとか。地域では高齢化がすすんでおり、今後社員さんの力がますます貴重になってくるかもしれません。
他社の社員さんと顔を合わせて共同作業をすると、自社の仕事だけでなく、「この地域を自分たちが守っていかなくてはならない」という意識がでてくるそうです。
「みんなでやると、前向きなアイディアが出て、パワーが出てきますよね。」
「同業者なのに、仲が良く、やっていて楽しいんです。」
とても前向きな様子に、感動を覚えました。
クリエイティブなリサイクル業
エコ協議会の会員企業14社(+賛助会員1社)は、様々なものを扱っています。
精密機器、紙、蛍光灯、電池、廃酸・廃アルカリ、プラスチック、医療廃棄物、廃木材、がれき、解体建築廃材、廃油、魚アラ・牛脂・・・・
それぞれ得意分野が違うので、お客さん(廃棄物を出す事業者)から相談を受けると、一番高度なリサイクルができる会社を紹介することができます。「ここへ来たら、たいていのものはリサイクルできる。」まさに“エコタウン”な千両松町です。
また、急速に普及してきた太陽光パネルのリサイクル処理技術についても、大学や製造企業と共同研究をされているそうです。
私たちの生活は、次々と開発される便利な製品にあふれています。しかし、使い終わった後の処理まで考えて造られている製品は、まだまだ少ないように思います。リサイクル業者さんの経験や知識は、きっと製品設計にも活かせるはず。
リサイクルは、新しいエコな製品を生み出す社会の動脈でもあるのです!長く使える製品、再利用しやすい製品がもっと増えていったらいいな、と思いました。
多種多様なリサイクル技術を持つ企業が集まる、クリエイティブなエコ協議会ですが、その活動の本旨は、あくまでも純粋な思いで取り組む地域活動。
「自分たちを守るための活動ではありません」「純粋な思いでなかったら続かない」と、はっきりとおっしゃっていました。
リサイクルの現場へ!
お話を伺った後、京都環境保全公社のリサイクル処理施設を見学させていただきました。結論から言うと・・・みんな、来た方がいいよ!
カップラーメンの蓋をつくっている工場から出てくる、カップラーメンの蓋だけの塊。
流行遅れになってロールごと持ち込まれた壁紙。
断熱材に使われて、分別できないのでリサイクルできないガラス。
いろいろな廃棄物が入ったポリ袋は、社員さんが一つずつ開封して、危険物が入っていないかを確かめるのだそうです。
気の遠くなる作業ですが、事故や火事を起こさないためには、人の目で確認することが必要なのですね。
廃棄物は、私たちの生活を映す鏡だなぁ、と実感しました。
ここへ来て、新しい製品に生まれ変わるものもあれば、焼却されたり、埋め立てられたりするものもある。
京都環境保全公社の山下さんの解説を聞きながら、人間や生き物の「いのち」だけではなくて、ものにも「いのち」があるんじゃないか。ものの「いのち」を大切につなげていく仕事なんだな。
そう思いました。
横大路の昔、今、これから
横大路地域は鴨川と桂川の合流地点が近く、「草津湊(くさつみなと)」という港と魚市場がありました。舟が淀川をさかのぼり、鮮魚が運ばれてくる「みなと」が、海のない京都市にあったとは…。ちょっと不思議な感じですが、昔の川は、今の国道や高速道路みたいなものだったのでしょう。
最初は伏見工業地帯か!?と思った横大路地域には、深い深い歴史があるんですね。さすが京都、さすが伏見です。
エコ協議会から、横大路の観光マップをつくろうという提案も出ているとか。
エコ+歴史+観光=??? 今後の展開が楽しみです。
「この辺はね、いいとこですよ。」と、横大路の歴史を語ってくださった福岡さんの穏やかな表情が、とても印象的でした。
(記:清水万由子)
後ろの煙突から出ているのは、焼却によって排出される水蒸気
千両松町で、光アスコン株式会社を創業されました。
左から、京都環境保全公社の山下さん、日本ウェストの三上さん、福岡さん
公社の処理現場を案内していただきました。 これは、カップラーメンの蓋のかたまり。
塩素を多く含む原料は、耐塩素の専用炉で燃焼する高塩素RPFになります。
産業廃棄物であっても、様々な廃棄物が混ざっている場合は、手作業で資源や危険物を選り分ける必要があります。
京都環境保全公社の屋上から、会員企業の社屋を見渡せます。