伏見のヨシから和紙へ
ヨシを材料に作った和紙を見せてくれる中野さん。
彼の取り組もうとしている「伏見のヨシから和紙へ」プロジェクトは、文字通り、伏見のヨシを和紙に加工して活用しようというものだ。
その意義について、中野さんはこう語る。
「ヨシはツバメのねぐらになるんです。でも、よしは刈り取らないと新芽がでないんですよ。
ふらふら揺れているのがいいらしいです。
それだったらススキでも良さそうなものですが、でもなぜか葦が好きらしいですね。
でもヨシは刈り取らないと新芽がでないんです。
そうするとツバメの寝床がなくなって減ってしまう」
地元住民によれば、ヨシの減少に伴ってツバメの姿を見かけることが少なくなったという。
ならばヨシを放置するのではなく、適切に手を加えることで、ヨシの新陳代謝を促し、ツバメの寝床も守る。これは生物多様性保全の視点だ。
また、「地元の子供たちが、ヨシにふれて、環境を考えるきっかけを作れるのではないか」というように、地域にある資源をただ放置するのではなく、活用するという視点も背景にある。
そうすることで、地域の環境問題を身近な場面で考えるきっかけを作ろうと考えている。
仕事の経験を活かして、伏見のヨシを活かす
中野さんの実家は木材屋を営んでおり、本人も木材につながる製紙メーカーに入社した。
その後も紙パルプを扱う商社に勤めた。退職後も社会貢献活動に関わってきた。
昨年、市民団体が伏見でヨシ焼きを復活させたことを知り、勇気づけられた。
だったら自分もヨシを有効活用する活動ができないか。そこで、自分の強みである紙づくりのノウハウを活かして、伏見のヨシで和紙を作ることを思い至った。
ヨシの活用では、滋賀県が先んじているという。企業がCSRの取り組みで腐葉土やすだれ、葦笛にして活用するという活動を行っている[※]。
中野さんもこれに負けじと追いかけたい考えだ。
ヨシ紙の作り方
紙すきは案外簡単にできるそうだ。紙すきの道具もそれほど高価ではない。
しかし、問題はその前段階、原料の入手と加工だ。まずある程度まとまった量のヨシを手に入れる必要がある。次にヨシをミキサーなどで粉砕して「つぶ」にする。
それから煮込んでどろどろの液体に変える。これを専用の道具で漉き、乾燥させると紙ができるのだが、このように原料加工に労力がかかる。またヨシ刈りもボランティアを中心に行われるため労力の問題も大きい。
それゆえ「一番いいのは、みんなでヨシ刈りをするところから始められることなんだけど、いきなりはむずかしい」という。
しかも今年は台風の水害の影響で、ヨシが汚れてしまった。
「泥やほこりがすごいんですよ。宇治川周辺はゴミだらけです。ヨシは水で倒れちゃうし」こうなると加工の手間も大きくなる。
中野さんのこれから
しかし、これらの課題を前にしながらも中野さんは前向きだ。
中野さんは伏見区役所の主催する市民参加事業「伏見をさかなにざっくばらん」などを活用しながら、ヨシで作った和紙を活用するワークショップなど、試験的な事業に取り組みながら「伏見の環境に関心を持ってもらえたらと願っている」と語っている。
中野さんの今後に注目だ。
[※] 例えば滋賀県は自治体を挙げて環境問題に取り組んでいる。
参考 http://www.ohmi.or.jp/yoshi/05_1.html
滋賀県グリーン購入ネットワーク http://shigagpn.gr.jp/
京都でもおよそ200社が加盟している。コクヨの関連会社も、ヨシ刈り活動でCSRに取り組んでいる。