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農業から考える環境保全と生物の多様性〜南山 泰宏さん

 京都教育大学に「環境教育実践センター」(以下センター)と呼ばれる環境教育の実践と研究を行う施設があります。伏見エコライフプロジェクトでは2012年に専任教員として研究に携わっていた梁川正先生に農業実習や栽培体験などの取組内容や、農業を学生や市民に伝えることの大切さを伺いました。今回、後任の南山泰宏先生から農業について、大学での研究活動についてお話を伺いました。

 

Q.幅広いイメージを持つ「環境教育」ですが、南山先生は現在どのような取組をしていますか?

確かに「環境」という言葉は意味が広いと思います。私は農学を専門とし、農業研究所や和歌山大学に勤めた後2015年にセンターに来ました。このセンターはもともと附属農場でしたし、農業と環境は深いつながりがあるので、私自身もここに来て、農業を中心とした環境教育に取り組んでいます。

「持続可能な(Sustainable)」という言葉を最近よく見聞きするようになりましたが、農業分野でも「持続可能な農業」という言葉が30年近く前から使われてきました。その背景には、近代農業では生産性の向上を最優先し、肥料や農薬などの化学資材を大量に投入したため、環境への負荷が大きくなり農地の荒廃が進んだことにあります。食糧生産の場である農業ができなくなってしまっては、人は生きていけません。日本においても他国に比べて狭い農地の中で、単位面積当たりの生産性を高くする集約的な農業が行われてきましたが、現在では環境への負荷を減らすための農業技術がたくさん開発され、環境にやさしい「持続可能な農業」が日本でも進められてきています。センターでも、環境教育の一面として、そういった観点から農業に関する教育や研究に取り組んでいます。

 

Q.農業を専門に選んだ原点、また学んだことを聞かせてください。

農家に生まれたわけではなく、もともと農業に縁があったのではありません。田畑など自然が身近にある中で幼少期を過ごしたことと生物の授業が好きだったので大学に進む時に農学部を選びました。

学部では品種改良について学び、大学院では雑草ヒエの種内分化を研究テーマとして取り上げました。雑草ヒエにはいろいろな種が含まれますが、その中でタイヌビエは水田にのみ適応進化した種になります。一方で、イヌビエという種は、水田だけでなく空き地や畑など様々なところに生えていますが、水田に生えているイヌビエはタイヌビエ同様に徐々に水田という環境に適応分化してきているのではないかということを研究していました。

 

Q.環境教育実践センターに着任して、現在取り組まれていることは何ですか?

主に高校農業の教員免許の授業を担当し、農業高校や理科の教員を目指す学生に、座学、実験、実習などの授業を通して必要な専門的知識を教えています。一方、農業実習の授業には、農業高校の免許を取得する学生だけでなく、単に農業に興味がある学生や、「京カレッジ(*1)」から参加される一般市民の方も受講されています。したがって、これまで植物の栽培などの経験がほとんどない受講生に、その基本的なところから伝えています。最初は、一般の方と学ぶことについて戸惑いがある学生も、グループ活動で種まきや収穫などを体験していくうちに、最後には「色々な世代の人と話ができて楽しかった」との声を聞くと、農業だけではない貴重な体験の機会になっているように感じることもあります。

*1京カレッジ:大学コンソーシアム京都による、一般市民に大学の授業を学ぶ機会を提供する生涯教育事業。

 

Q.学生だけでなく、一般市民の方々との関わりもあるのですね。

例えば8月の葉牡丹の定植作業は大学の夏休みに、一時に集中して行うため「京カレッジ」などで実習を受講した地域の人たちの協力を得て行っています。また、センターでは定期的に公開講座や公開講演会を開催しており、京都教育大学にこのような場所があることを地域の方に知って頂ける機会になっています。いろいろな機会を通してセンターを知って頂いた方々に、実習で栽培した苗や収穫した生産物なども購入して頂いています。

 

 

Q.南山先生が今研究しているトキソウの保全について少し詳しく教えてください。

本学の教育学研究科に来られた現職の先生が、勤務する高校の近くにある湿地の保全活動に取り組んでおられていて、その湿地に自生していた準絶滅危惧トキソウの個体数が減少していたことからトキソウの増殖に関する研究に取りかかりました。その後、近畿地方にある4つの湿地に自生しているトキソウについて、遺伝子レベルでの多様性の調査を行い、各湿地に自生するトキソウが遺伝的に分化していること、個体数が多くても遺伝的な多様性が低い湿地があることなどが分かりました。遺伝的多様性が低下すれば絶滅の危険性が高くなる可能性があるため、トキソウの保全のためにはそれぞれの湿地に自生するトキソウを個々に保全していくことが大切であると考えています。

 

Q.今後はどのように研究を進めていきたいですか?

トキソウの調査を行った湿地の数がまだ少ないので、他の地域の湿地のトキソウについても遺伝的多様性について研究を行いたいと思っています。また、トキソウが主にどういう繁殖様式を行って生育しているかよくわかっていないので、そういったことも知りたいと思っています。さらに、遺伝的多様性の低下と絶滅リスクの関係性について、トキソウを材料にして調べてみたいです。

 

Q.伏見エコライフプロジェクトで協力していただいた「グリーンカーテン事業」の印象は?

2つの保育園の活動現場を見て、現場の先生は知識も経験もあり、グリーンカーテンだけではなく、野菜や花を育てている様子が伝わりました。ひとつの保育園では園児のお昼寝時間と重なったため一緒に作業はできませんでしたが、もう1つの保育園の園児は元気に、率先して自分たちで土を運び、プランターに入れて、苗を植えて、水を遣るなど、土に触るのを臆せず楽しんでくれて嬉しかったです。

 

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京都教育大学環境教育実践センター

京都教育大学第2学舎

〒612-8431 京都市伏見区深草越後屋敷町112

TEL&FAX 075-641-3872

栽培学習を中心とする環境教育を実践する畑や温室、有機物を堆肥にするリサイクルシステムやペレットストーブ、太陽光発電設備を備えた講義室や実験室などがあります。

 

取材後記

身近な話題から生物の多様性や環境保全型農業などの専門的なお話まで、幅広く伺うことができました。SDGsが重視されている今こそ、「農業も環境に負荷をかけている」という視点を再確認し、日常の食事や身近な地域からできることを少しずつ実践していきたいと思います。(弘田)

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