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知らず知らずのうちにエコ!お稲荷さんの“ほんまもん”

総本家いなりや 三代目 郷 正清さん

 今や、世界中から脚光を浴びている伏見稲荷大社。裏参道で、せんべいを一枚一枚ていねいに焼く、三代目・郷正清さん。素材にこだわり、手焼きにこだわる。店頭で、弟・誠治さんとの実演を拝見しながら取材を始めた。

 

シンプル&ナチュラル 幅広い世代に愛されて

 

 3キロほどもある型を軽々と使い、テンポよく、きつねせんべいを焼く郷さん。取材に笑顔で答えながら、愛らしい顔のせんべいが次々に焼き上がっていく。

 材料は、小麦粉、白味噌、砂糖、白ごまと、たったの4種類。小麦粉は2~3種類ブレンドし、粘りとつやが出て色が白いものをオーダー。白味噌はもちろん京都産と、いずれも吟味されたものばかりだ。   

しかも、添加物を一切使わず、シンプル&ナチュラルなのもうれしい。

 取材冥利! 焼きたての“ほやほや”をいただく。ほんのりした甘さにパリッとした食感、香ばしさが口に広がる。白味噌の甘みが好きだという郷さんだが、夏場は少し塩分が多くなるらしい。

 「子どもの頃に来てくれた人が、孫を連れて顔を見せてくれる。本当にうれしいですね」と、郷さんの顔がほころぶ。

 

 

岐阜から京都へ 誕生した“稲荷の顔”

 

 観光で稲荷を訪れた先代が、山の神秘さに惹かれ、現在の場所に移ってきたのが昭和初期。以前は岐阜市内で店舗を構え、白味噌ではなく、赤味噌を使っていたそう。移転当時は稲荷らしい土産物がなく、誕生したのが、店の“顔”ともいうべき、きつねせんべいや辻占せんべい(おみくじ入り)というわけだ。

 きつねせんべいは、伏見稲荷大社1300年祭の時、直会(なおらい)※の品として参拝者に贈られ、辻占せんべいは占いの種類が240種類もあるというから驚きだ。

 「昔は川柳みたいでわかりにくかったんですが、若い人にもわかるように、本を参考に私が考えました。総合運、健康運、仕事運、恋愛運、金運の中から、2つか3つをセットにしています。お客さんに“当たる”って言われたら励みになりますね(笑)。目標は、360種類つくること。がんばります!」と、郷さんは意欲を燃やす。

 

 

職人としてのこだわり 磨き上げられた技

 

 “職人は人のやっているところを見て覚えろ”とは、お父様である二代目の言葉。

 「なかなか難しく教えてもらいましたね(苦笑)。要らんことは口に出すけど、肝心なことは教えてくれない。理屈がわからないと納得できないでしょう。でも、やっているうちにわかるようになってきました。そうなると、自分なりに付け加えるから、よけいに難しくなった」

 1~2年経ち、焼くせんべいが変わり、満足度が変わってきたと言う。そして、年に何度かは“売りたくない!”と思うほどのものが焼ける。それは見本にして、店内に飾っておくのだそう。

 「機械で焼いている所もあるが、うちは手づくり。そういったものと比べてほしくない」と郷さん。日々たゆまぬ努力を重ね、鍛練により磨き上げられた技。職人としての、こだわりと誇りが伺える。

 

お手本にしたいエコライフ&エコアクション

 

 「エコな取り組みを教えてください」の問いに、「えっ、特にはしてませんよ…」との郷さんだったが。いえいえ、とんでもない。知らず知らずのうちに、しっかり、きちんとエコライフ実践中。

 せんべいの材料をすくうお玉は、なんとお手製。以前、使っていた型に合わせて特殊なはさみで半分に切ったもので、きつねせんべいを焼くのにちょうどいい分量なんだそう。さらに、せんべいの焼き型も、型をつくる職人さんがいなくなり、直しながら大切に使っている。使いやすさを考えて、必要に迫られてのことだが、エコライフプロジェクトとして、まさに目指すところだ。

 さらに、笑顔がすてきな奥様の芳枝さんからも、エコなうれしいお話を。一部の地域の修学旅行生だけでなく、海外からの旅行者もエコバッグを持参し、土産袋を辞退するという。修学旅行生のエコバッグは、旅行会社から配布されたもののようだが、少しずつ、でも着実に、エコアクションが広がっているのが実感できる。

 

 

郷さんの“人となり”

 

 多忙な郷さんだが、地域活動にも積極的に貢献する。

 一番上のお嬢さんが小学校の頃はPTA会長と消防団で活躍。「稲荷で商売をさせてもらっているのに、当時は誰も消防団に入っていなくて」と、謙虚な郷さん。

 先代が魅せられた稲荷。自然ゆたかで、昔は水晶山、松茸山とも呼ばれ、ゲンジボタルや水晶が採れたそう。今でも山の上には、サワガニもいるとか。

 「季節の変わり目や葉が落ちる時とか、朝、山に入ると、景色は一緒でも山のにおいが違うんです」

 子どもの頃の稲荷山の印象だが、郷さんの感性の高さが伺える。何事にも真摯に向き合い、人やものに優しい郷さんの“人となり”が感じられる。

 喜んで食べる笑顔がみたいから、今日も、一枚一枚ていねいに、きつねせんべいが焼かれている。

 

 

※直会(なおらい)…祭りごとの後の食事の意味。

 

取材日:2017年12月18日

エコれぽ隊:長沢、亀村

 

総本家いなりや

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