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喰われても喰われても、曲げない「無農薬」の信念〜井上義則さん

近鉄に乗り、京都方面から向島駅を通過する際、車窓からの景色は線路を挟んだ東西でまるで違います。東側は開発された住宅街、西側は大きく開けた農地。京都市内でこれだけコントラストがはっきりしたエリアも珍しいでしょう。今回ご紹介する井上さんは、そんな向島の西側でイタリアンレストランを営むオーナーシェフ。黄色い外観と白いテラスが印象的な一軒家には、「農園大衆食堂Agri(アグリ)」の看板が上がります。

なぜ人の集まる東側でなく、この西側でお店を開かれたのか。取材を始めると、その理由はすぐに明らかになりました。

 

単身乗り込んだイタリアで気づいた、本当にやりたかったこと

井上さんは、昭和28年生まれ。小さい時から家の周りでお父様が育てられていた有機野菜の収穫を手伝ったり、またそれを口にしたりする機会が多かったといいます。学校卒業後は楽器の販売を手がける会社に勤め、やがて脱サラ。ぼんやりと考えていた有機野菜の魅力を伝えられるレストランを開きたいな、という夢を本格的にかなえるべく、料理学校へと入学しました。しかしながら学校だけでは自分の思う料理に辿りつけず、大阪のイタリアンレストランの門を叩き、修行。それでもまだ納得ができず、遂には単身、イタリア中部のウンブリア州へと渡ります。そこではアグリツーリズモと呼ばれる農園滞在が盛んに行われており、井上さんもそのまっただ中へ。農園の女主人とカゴを持って草むらへ行くと、あれもOK、これもOK、とおもむろに草を摘みだすのだそう。かつて井上さんが日本で学んだイタリア料理は、見た目とカタチの美しさが先んじたものでしたが、現地で体験したものはもっと豪快に、素材のそのものの味を楽しむものでした。これだ、これがやりたかったんだ、と井上さんに大きな気付きが訪れます。

 

畑のあるレストラン「Agri」

経験を積んだ井上さんは、イタリア語で農業を意味する"Agricoltura"から店名をとり、50歳になったのを機にこのお店をスタート。料理人としては遅咲きになるかもしれませんが、一方では大きな強みがあります。それは誰にも負けない野菜に対する想いと確かな目利き、そしてなによりお店の敷地内に畑があること。本場イタリアで学んだ技術と、地元の方に毎日でも通っていただける味付け、そして敷地内で採れる新鮮な野菜。それも無農薬の有機野菜がいただけるのですから、もうそれだけで行きたくなりますよね。取材チームもワクワクしながら、ランチ会を兼ねた当日を迎えました。

 

野菜の味感動!​

平日の少し遅目のランチタイムであったにもかかわらず、店内は満員。そこかしこにフィレンツェをはじめとした明媚な観光地の写真が飾ってあります。オーク色のテーブルセットに掛けられた深いブルーのクロスは、さながら彼の地から見た海の色にインスパイアされたものでしょうか。地元を愛する地域住民の方と一緒に通されたのは、畑が間近に見えるサンルーム。この日は1280円のランチコースを頂きました。ほっこりと身体があたたまるスープにつづいてサーブされたのはサラダ。まず驚かされるのが、その量。小鉢にひと盛り、というボリュームではありません。パスタ皿ほどの大きさの器に、鮮やかな色の野菜がたっぷり。新鮮な野菜は、よく「甘い!」と評されますが、口に運ぶと野菜本来の苦味もしっかり感じられます。「自分がお店に行って、小さいサラダが出てきたらがっかりするんですわ。だから、うちではたっぷり、多めに召し上がっていただいています」と井上さん。お店の看板メニューは?とお聞きすると二つ返事で「サラダ」と返ってきました。お野菜に対する自信の現れですね。

 

井上さんのエコな取り組み​

取材終了後、店舗に隣接する畑へと案内してもらいました。キャベツやレタスの葉に残された痛々しいほどの虫食いの跡は、この野菜が紛れも無く無農薬である証であると感じさせられます。「あ~もう、ほんまに。けしからんのですけどね」と言って苦笑いする井上さん。農薬を吹き付ければ、虫は寄り付かず収穫量も増えるのは明白ですが、井上さんは頑なに無農薬を貫いています。

 

また、時期的にこのスペースだけでは収穫不可能な野菜については、地元の農家さんから仕入れておられます。そのきっかけも、自転車でまちを走っている最中に、「ええレタスできとるなあ」と声を掛けた先が、過去にこのサイトでもご紹介した中嶋農園さんのものだったのだとか。地域の野菜にこだわることで、輸送に関わるCo2排出の削減にも大きく貢献されていますね。

 

 

編集後記

畑を眺めながらのランチは素晴らしい体験でした。

夏が来れば、陽の光を遮るものがないあの畑にナスやトマト、きゅうりといった色鮮やかな夏野菜がところ狭しと鈴なりになるところを想像すると、楽しみでなりません。

子どもの頃は、出されてもつい残しがちだった野菜ですが、大人になるにつれ好き嫌いも減り、やがて野菜の旨みがある程度わかるようになってきました。そんな矢先にいただいた有機野菜の味はまた格別と感じるとともに、野菜ってこんなに美味しいものだというのが、もっともっと子どもたちにも伝わればいいのに、とも思います。お店の近くには、今年新たに小中一貫校の開校が決定しています。広大な農地を有するまち、向島ならではの食育として、野菜大好き!と元気よく言える子どもたちがたくさん育ってくれれば良いですね(^^)

 

井上 義則 

農園大衆食堂 Osteria Cafe Agri

〒612-8155 京都市伏見区向島東定請21-2

075-602-9381

http://www.agri-kyoto.com

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