四季を感じる風景、町並みを描く 画家・藤田輝二さん
西陣に生まれ、現在向島に暮らす藤田輝二さんは油絵と水彩画の教室を開く他、「絵を描くことで地域に貢献できることがあるのがうれしい」と、むかいじま図書館の依頼に応えて、図書館でこれまでに9回個展を開き、2015年には図書館から「伏見城より向島城を望む〔桃山時代〕」の絵の制作を依頼され、納めた。また、伏見でのまちづくり交流会「伏見をさかなにざっくばらん」の活動の一環で、伏見の昔話を伝える絵本の挿絵を描いた。
今回の取材では、藤田さんに絵を描き始めたきっかけや仕事と絵描きの両立、絵を描くときのエコな思いなどお話を伺った。
絵を描き始めたきっかけ
藤田さんは幼少の頃より絵を描くのが好きだった。写生会で金賞をとった絵が小学校の図書館に飾られ、学校の所蔵品になったそうだ。芸術大学に進みたい気持ちを抑えて高校卒業後に一度就職したものの、「これからは大学へ行く時代だ」との友人の勧めで立命館大学2部へ入り、働きながら経営学を学んだ。
卒業後にシンポ工業株式会社へ転職し、サラリーマンとしての日々を過ごしていた38歳のある日、奥さんに絵の自慢をしてみたところ、これまでに描いた絵は向島へ引っ越した時に全て失くしていたので奥さんから「証拠がないじゃない」と言われてしまった。そこで一念発起して、藤田さんは勤めながら、プロの洋画家に弟子入りし、15年間習い続けた。すでに独特の作風を身につけていた藤田さんは、絵を再び描き始めると、やがて公募展で受賞し、個展を開催して新聞やテレビに取り上げられた。また、京阪電車の特急の車内にも作品が掲示され、4年間「京都の風景」が淀屋橋・出町柳間を往復していた。
仕事と絵の両立で感性を磨き、学びを得る
56歳の時、勤めていた会社が日本電産株式会社に吸収合併されてから、藤田さんは日本電産の監査室課長として日本全国の関係会社や東南アジア諸国の現地法人等150社を監査・指導に回った。出張には画材道具も持って行き、仕事の傍ら現地の風景を描いた。結果的にはこれが仕事にも大いに役立ったとのこと。
藤田さんが絵を描く時、構図や絵で伝えたいことを瞬時で決めるのだそうだ。驚いたことに、15〜30分くらいで一気にスケッチを完成させる。そのスタイルは仕事にも活かされていたと言う。「海外出張では1週間など滞在時間に限りがある中で、出張先の経営課題を見つけ、改善していく必要がありました。まず、現地会社の社長の経営方針を聞き、その方針がどのように守られているのかを確認します。続いて、工場管理がどのようにされているのかをマネジャーなどに尋ね、工場の現場の声を聞きます。」良いところと悪いところを客観的に見て、そのポイントに素早く気づき、仕事相手に伝えてきたのだそうだ。
また、「人に伝える時には人の心に届くように心がける」ことも、仕事も絵も同じだと言う。「人の心に訴えるには、自分で努力して人間を磨かないといけないと気づきました。そのため、仕事においても、絵を描くにおいても、好奇心を忘れず、本を読んだり現場に出かけるなどしてきました。」仕事と絵描きを両立した藤田さんの絵は、日本電産ビルにも飾られているそうだ。
身近な素材を活かし、四季を感じる絵を描く
藤田さんは主に風景を描く。絵を描くことで自然の営みを感じられる。「自然ほど変化のあるものはありませんね。同じ場所でも時間や太陽の光、天候具合によって風景は異なり、同じものは二つとありません」。
1年かけて町家を描いたこともある。祇園祭の時期には提灯が、冬は門松が飾られるなど、人の暮らしの中にも四季が感じられ、面白みを感じるのだそうだ。四季を感じるため、写真ではなく現場に足を運び、その風景をスケッチする。
伏見のまちづくり活動に関わる中で描いた「伏見の水のお話」の挿絵には、絵筆としてあじさいの茎を使った。挿絵のイメージに、この自然素材で柔らかく描くのがぴったりだったのだそうだ。「割り箸でも描けるようにするし、寿司箱のヘリでも絵は描けます。」
身近にあるものを活かし、捨てる前に何かに活かせないかと考えるそうだ。絵の具、鉛筆、炭、クレヨンと描く素材にはこだわらず、藤田さんの絵は描かれている。「固定観念にとらわれず、新しい描き方、今までにない、他の人も使わない描き方を見つけたいですね」。藤田さんの好奇心とエコな気持ちが、個性ある作品づくりにつながっている。
《個展のお知らせ》
平成29年2月1日〜27日、むかいじま図書館で、10回目となる藤田さんの個展が開かれます。今回は伏見をテーマに向島、中書島、酒蔵の街、鳥羽、淀の絵を毎週8点ずつ、合計32点展示されます。毎回好評の個展をぜひご覧ください。