top of page

ものづくりは人づくり〜椅子の張替えから人に優しく、モノに優しくできる社会に〜柴原道明さん

 

伏見区にある株式会社シバハラでは、自社工場で別注の椅子を作り、修理・張替えも行っています。全国のレストラン、ホテル、銀行、公共施設等へ椅子を納め、スターバックスの各店舗に置かれるソファの修理などをしています。今回は株式会社シバハラ代表取締役を務める柴原道明さんに椅子の張替えに込める想いなどを伺いました。

 

椅子職人になられたきっかけは?

私は滋賀に長男として生まれました。「医者や学校の先生になって欲しい」と思い育ててくれた父が、私が幼いころに亡くなりました。親の意思をついで高校へ進学するつもりでしたが、うちは片親で貧乏したもので、高校へ進学するための学費を出せませんでした。そんな時、伊勢湾台風で家を失った後に住んでいた母子寮の寮長先生から「あきらめるな。職人になって自立し、社長になれば一人前になれる」と励まされ、寮長先生の伝をたどって椅子の会社を訪ねたのが椅子張りとの出会いです。中学卒業後に修行を始め、昭和44年(1969年)、22歳の時に起業しました。大阪で修行した後、伏見で会社を立ち上げたのは、少しでも故郷の近くがよかったからですかね。

 

生活様式の変化に伴い、椅子の需要は増えていますか?

はい。私が修行を始めたころは、ちゃぶ台で座ってごはんを食べていました。当時は、裕福な家や銀行、証券会社の応接間など限られたところでしか椅子はなかったんですよ。今は、どこにいっても椅子が置かれるようになり、椅子業界は人手不足です。

椅子の張替えに携わって感じることは?

椅子の修理や張替えについてまだまだ知られていないと感じています。

モノが壊れたら新品を買い直す、使い捨ての時代にどっぷりはまった社会だからこそ張替えや修理は大切だと思います。古いものを大切にする人は、人も大切にするでしょうし、その心を持てばモノは長持ちします。椅子の張替えを通じて、私はモノを大切にする心を持ち、優しい人間が育つ社会を望んでいます。

 

「エコな生活を」とか「モノを大切に」というかけ声だけでは、なかなか人の心は動かないでしょう。捨てたら大型ゴミとして扱われる椅子や家具を消費者が修理に出したら、行政が1割でも2割でも市民に補助金を出すような仕組みができれば、ゴミを減らす行動につながるのではないでしょうか。

 

張り替えることの良さを教えてください。

新品同様になる上に、技術次第で椅子そのものが全く違うデザインに生まれ変わる事もできます。そうすることで椅子への思い出は続くところです。

 

張り替えるタイミングは?

だいたい10年ごとに張替えるといいですよ。ものすごく悪い状態で修理するよりも、痛む寸前で手を入れるほうが長持ちします。お金もかかることですし、定期的に張替えるのは難しいかもしれませんが。

今、柴原さんがやりたいことは何ですか?

今は、子ども達の為の商品を作るのが楽しくて仕方がありません。平成25年(2013年)に株式会社ドウミョウドウというこども向けの商品企画を行う会社を設立しました。椅子の仕事で仙台へ行った時、東日本大震災の後、子どもたちが屋外で遊べない様子を見聞きしたことがきっかけで、室内で子どもたちが遊べる場所を作りたいと思ったからです。

 

椅子張りの技術を活かして、マットのほか、すべり台やお城、トンネルなど子どもたちが喜びそうなものを、クッション材を用いて安全性に考慮して製作しています。また、独自のアイデアで災害時の備蓄用品が収納できる積み木のようなブロックも販売しています。

 

柴原さんは、椅子の張替え技術継承のため、京都椅子専門学院を開校されています。いつ設立されましたか?

平成19年(2007年)です。「先生と呼ばれる人になり、社会に役立つ人になりなさい」と言った父との約束をいつか果たそうと思っていました。毎年10人生徒を募集し、合計100人の職人を育てようと決めて、学べる場を作りました。来年は10年目の締めくくりの年になります。

 

どのような生徒が学びにきますか?

遠くは福島、新潟、富山など日本全国から学びに来ています。多くは社会経験を積んだ人たちで、2年間ここで裁断、縫製から椅子張りまで学び、実習します。ミシンがかけられなくても構いません。ここに来れば必ずできるようになりますから。

 

講師としてどのような想いで生徒に教えていますか?

生徒には「ものづくりをすれば一生飯が食えるよ。」「定年など関係なく働けるよ。」と一生物の仕事だと伝えています。そのため、職人として「感性を磨きなさい」と言っています。

 

感性はどのように磨くのでしょう?

何でもいいんですよ。山登りやサイクリングをする、美術館を訪ねる、音楽を聞く、落語を聞く、本を読むなど、心が豊かになるような、色々な遊びを経験することで磨かれると思っています。

 

椅子の職人とはどのような人ですか?

型出しができて、ミシンがかけられて…。昔は応接間に置いてあるような椅子ができれば一人前と言われましたが、今は多種多様な椅子があり、一通り覚えるまでに昔よりも時間がかかります。10年から15年もすれば一通りのことができるようになると思いますが、銀行の椅子もあれば、お好み焼き屋の椅子もあり、ホテルや病院などその場に応じて求められる椅子は異なりますから、こんなに面白い仕事はないと同時に、死ぬまで一人前にはなれないかもしれません。

ものづくりは一人前から一流になり、一流からやがて名人になります。そこまでなろうと思ったら、感性、技術を磨き、創造力をつけていかないといけませんね。

 

感性の話に戻りますが、自然からヒントを得られることも多いです。例えば小鳥のさえずりを聞いて、子どもたちに小鳥のさえずりが聞こえるような空間を作る発想が浮かんだり、自然の緑とタンポポの黄色の美しさを見て感じて、緑と黄色を使ったデザインに活かしたりします。

 

最後に、柴原さんにとってエコとは何ですか?

椅子の張替えそのものです。修理して使われる限り、大型ゴミにはなりません。質の良い椅子を大事に使えば何年でも持ちます。

 

一方で、ものづくりの過程で出るゴミが気になります。例えば、椅子の裏にある革や端切れの生地は多くが捨てられますが、その生地を使ってかばんなどを作れるでしょう。自分のできる範囲では、端切れを欲しい人に譲っていますが、製作過程で出るロスを活かせる仕組みがあればいいと思います。

 

​企業情報

株式会社シバハラ、株式会社道明堂(ドウミョウドウ)

住所:〒612−8444 京都市伏見区竹田田中宮町11

TEL 075-585-3088

FAX 075-496-9150

Email: domyodo@is-shibahara.com

 

(取材後記)

株式会社シバハラに一歩足を踏み入れると、たくさんのソファと椅子が所狭しと置かれ、その奥では熱心に椅子作りに取り組まれる生徒さんの姿が見えた。モノ作りが好きな私にとって、ワクワクする光景だ。

 

今の時代、モノを修理するより買った方が早くて安く済む場合が多いかもしれない。だが、「モノや思い出を大切にすることで、人にも優しくなれる」という柴原社長の言葉に、強く納得した。私自身も、日々の暮らしのなかで大切なことを見失わないようにしたい。(池尻)

 

感性は生まれつきではなく、暮らしの中で磨き高められるものと伺い、日々の暮らしに楽しさをどんどん取り入れて、仕事への新たな発想や環境に負担をかけないような暮らしのアイデアを発見するアンテナを張ろう。使い続けられるもの、長く使えるもの、また長く使う気持ちを持ってモノを選んでいきたい。(亀村)

bottom of page