「おいしい」と喜ぶ笑顔が見たくて~40年近く農薬・化学肥料を使わない農を営む壇さん~
伏見区久我に暮らし、久我や向島などで約40年間農薬、化学肥料を使わずに米や野菜を育てる壇進さん、美恵子さん、一郎さん。壇さん一家は伏見エコライフプロジェクトが毎年6月と12月に開く「伏見区民にぎわいエコ朝市」に出店されています。今回壇さんから米や野菜づくりのお話を伺いました。
壇さんの夏の代表野菜・モロヘイヤ
取材した8月、壇さんの畑ではモロヘイヤが旬を迎えていた。
モロヘイヤはエジプトで古くから作られていた野菜で、日本で栽培が行われるようになった80年代から壇さんもモロヘイヤを作っている。「健康に良い」と聞いてモロヘイヤを植えてみたところ、進さんは「私は昔大酒飲みだったんだけれども、お酒のアテにモロヘイヤを食べていたら、体調が悪くならないんです。健康に良いんだなあと実感しました。」
実際、モロヘイヤはβカロテンや食物繊維、様々なビタミンを含む野菜で、味にくせがないのでお浸しやみそ汁など和食にもぴったり合う。壇さんのモロヘイヤは、美恵子さんのおすすめレシピを添えて店へ出荷している。
野菜の養分を活かした農業
「うちは土づくりをしているのよ」と美恵子さんは言う。籾殻や米ぬか、おからなどで堆肥を作り、土壌に有機質の養分をたっぷり含ませている。
進さんは「うちは、米を作るのに肥料は要らないんです」と語る。米を収穫した後の田んぼで育てた『はたけ菜』の菜の花を耕して土ごと堆肥にし、次の米作りのための養分にするからだそうだ。
無農薬栽培を始めたきっかけと良き出会い
農薬や化学肥料を使う農業が広がり始めた時代に,美恵子さんはふと「今後は無農薬野菜を求める時代が来るだろうな」と感じて農薬を使うのを止めた。その頃はまだ化学肥料を使っていたそうだが、販売してみると、無農薬の野菜を喜ぶ人がたくさんいることを知った。
ある日、美恵子さんは偶然KBSラジオから「無農薬の野菜がなくて困っている」という声を聞いた。美恵子さんはすぐにラジオ局に連絡し、「うちには無農薬のはたけ菜がいっぱいありますよ」と伝えたところ、声の主「安全農産供給センター」とつながったのだ。
安全農産供給センターは宇治にある共同購入団体で、人にも環境にも優しい食べ物を選び、安全な食文化を残そうと1975年から活動している。これを機に、壇さんは学習しながら化学肥料も止めて,安全農産供給センターへ農薬・化学肥料不使用の野菜を届けるようになった。
農薬や化学肥料の利用が当たり前になる時代の中で、無農薬、化学肥料不使用の野菜づくりは一般にはなかなか理解されなかった。
しかし,安全農産供給センターの創始者である槌田劭(たかし)氏や有機農業研究者の西村和雄氏から「壇さん、一緒に有機農法をやっていきましょうね」という励ましと、安全農産供給センターの会員の支えがあったおかげで、今日まで続けて来られたとのこと。
「この出会いを通じて色々な人とめぐりあって、野菜市などあちこち出かけるようになったら、さらに知り合いが増えました。」と美恵子さんが言うと、進さんは「そうそう。最近はアレルギーを持つ子どももいるでしょう。子どもがアレルギーで食べるものが無いという話を聞いて、うちの野菜と米をあげたところ、アレルギー反応が出なかったと喜んでもらって、そこからつながった人もいます」。
伏見区民にぎわいエコ朝市では「無農薬野菜の手間を理解して,野菜を手に取る人たちに出会えるのが有り難い」と感じている。2016年2月から始まった納屋町商店街の朝市では,毎週月曜日の開催日を心待ちにしてもらえる人がいるそうだ。そのほか、季節によって野菜の多い、少ないがあるので常設ではないものの、伏見区では、大手筋商店街の『わだかつ』店舗前、じねんと市場、コープ桃山、深草にある『喫茶うずら』で壇さんの野菜を買うことができる。
畑づくりを続けることの大変さとやりがい
日々の作業では虫がつくのを防いだり,草を取り除いたりするのが大変だ。
「田植え後、草を取るために田んぼに入るのですが、1回入るだけでも相当しんどいです」と一郎さんが伝える。壇さんが育てる約1町(10,000㎡)の田んぼの広さを思うと,草取りの大変さは想像するに難くない。
また、最近進さんが体調を崩したこともあって、年を取ってきたことを実感しているのだそうだ。一郎さんが農業を継いでくれたとはいえ、広い田畑を1人で見るのは大変なため、農業を手伝ってくれる体制が必要なのではないかと思い始めている。「元気なうちは頑張れるけれど、高齢という限界があると気づきました」と美恵子さん。とはいえ、「まだ十分がんばれると翌日には思い直しているかもしれませんけれど」と茶目っ気たっぷりに笑って会話は続いた。
米や野菜を作る苦労は絶えずとも、壇さん一家は農薬を使わず、化学肥料を使わず、昔ながらの農家の暮らしを続けながら、自分たちの作る野菜を求める人たちの喜ぶ顔や励ましの声を支えに米や野菜を作り続けている。
だん弥・壇進
壇 美恵子
壇 一郎
連絡先 TEL・FAX(075)921-6070