「深草うちわ」の技術を学び,伝える
エアコンや扇風機が発明されるよりもずっと前から使われているうちわ。
うちわは電気を使わず,暑い夏を乗り切るのに良いし,軽くて持ち運ぶのも苦になりません。
また,浴衣を着て出かけるときにも,お気に入りのうちわがあると気分が高まります。
エコに,おしゃれに,夏を彩るのに欠かせないうちわ。
今回は深草の竹を使ってうちわを作っている「伏見のエコな人」を求めて,NPO法人京都・深草ふれあい隊 竹と緑の佐々木幹夫さんにお話を伺いました。
NPO活動を始めてものづくりの面白さを堪能する
深草駅を降り,15分ほど歩いた稲荷山のふもとに「NPO法人京都・深草ふれあい隊 竹と緑(以下,NPO竹と緑)」の活動拠点があります。
佐々木さんは伏見桃山に暮らして約30年。
製薬会社を退職してまもない2008年,荒廃竹林を再生する「深草ふれあい農業体験教室」に参加したことがきっかけでNPO法人竹と緑に出会いました。
今までとは全く異なる世界へ足を踏み入れた佐々木さん。
「手入れされた竹林は見ているだけでもきれいで,竹林の中に立つと気持ちがスッとする。
手入れすれば,春にたけの子も出て旬を味わえるのもうれしい」と語り,「何より竹には竹炭、竹酢液、竹紙など色々なものを生み出す可能性があるのが魅力的」と,伐採した竹を上手く活用して作品を作っています。
深草の地で,深草の竹を使った「深草うちわ」の復活を目指す
2011年にNPO竹と緑では「うちわ事業部」を設けて,佐々木さんがリーダーを務めながら「深草うちわ」の技術習得とその普及に励んでいます。
「深草うちわ」は江戸から明治にかけて作られ,京の人々に親しまれていたそうです。
「深草うちわ」は1本の竹の柄の上部分を割いて40本ぐらいの骨を作り,その骨を扇形に広げ,その骨の上に紙を貼るのが特徴です。
しかし,残念ながら「深草うちわ」の骨を作る技術のある人が京都にはいなくなって久しいのだそうです。
明治・大正以降も、うちわの産地とした知られる香川県の丸亀まで指導に行かれた小丸屋さんの技法は受け継がれているものの、「深草の真竹を使った深草うちわを伝承していきたい。
その技を持つ人材を深草の地元で育成していきたい。」という老舗小丸屋住井さんの願い(*1)がきっかけとなって「深草うちわ」の復活に向けた活動が始まりました。
(*1)THE FUSHIMI 8月号より引用
初めに、代々小丸屋さんの技術指導を受け継いだ職人さんを招いての研修会を企画しました。
小丸屋さんの協力で実現、技術を学びました。
実際に作り始めると,竹の骨を作る「割(わき)」という作業や,ひとつひとつの骨に糸で編んでうちわの形を作る「編み」などを身につけるべき作業がたくさんありました。
しかし,佐々木さんはうちわを作れば作るほど「ひとつひとつの作業を丁寧にしよう」,「もっといいものを作りたい」という気持ちがどんどん高まっていったのです。
うちわづくりの技術を市民に伝える深草の竹を使い、骨を割き・骨を編みうちわを完成出来るようにと、小丸屋さんの持つ古い時代の道具を参考に使いやすいものを作りながら、研修会を始めました。
世界にひとつしかないうちわを作ることによって,研修会に参加する人たちに,手作りうちわの良さを実感してもらえるような内容を心がけています。
小学生からシニアまで,参加者の年齢やレベルに合わせてプログラムを組むと,ひとつとして同じプログラムはありません。
その準備は大変ですが,参加者から「もっと作りたい」「次の研修会も教えてください」との感想を聞くと「うれしくて疲れも吹っ飛ぶ」と佐々木さんは語ります。
「僕が得た技術はまだまだ職人レベルとは言えません」と謙遜する佐々木さん。
でも,ゼロから取り組んだ佐々木さんだからこそ「うちわづくりのどこが難しいのか」,「どのようにしたら初心者が取り組みやすいのか」に心を砕き,これから初めてうちわを作る人たちにその技術を伝えるためにできることは何かと考えて実践しています。
例えば,竹の骨を糸で編み易くするために,うちわの骨を支える台を作りました。
これは,昔の職人さんは自分の手足のみで骨を支えて糸を編みますが,「うちわが揺れてしまって,なかなか編みづらい」という佐々木さんの経験に基づいています。
夢はうちわの柄も紙も100%メイド・イン・深草
また,伝統的な技術を踏まえたうえで,NPO竹と緑として取り組むからには骨だけでなく紙も竹で作られた竹紙を貼り,深草産100%の「深草うちわ」を作りたいという夢に支えられて,腕を上げるべく作品を作っています。
「深草うちわ」づくりだけでなく,竹林整備を始めNPO竹と緑の活動全般に関わっている佐々木さんは休む間がありません。
「仕事をしているときよりも忙しくなったかもしれないけれど,充実しています。楽しくやれるように工夫しているから,ストレスもありません」と明るく語る佐々木さん。
「人がいれば技術はつながる。」
そう信じて,佐々木さんは深草うちわの復活のための技術を自ら学び,伝えています。
「たくさんの人にうちわづくりを体験してもらって,1人でも作り続けて技術を高めてもらえるような人に出会えたらうれしい」と話す佐々木さん。
「深草うちわ」で夏の涼をとる伏見のまちとなるように活動は続きます。
お問い合わせ
NPO法人京都・深草ふれあい隊 竹と緑
〒612-0812
京都市伏見区深草坊山町41-10
TEL&FAX:050-3376-3488
Email: taketomidori@rondo.ocn.ne.jp
URL: http://taketomidori.jimdo.com/
facebook: www.facebook.com/taketomidori
編集後記
情報化社会の今日、毎日いろんなニュースで頭がいっぱいです。
そして、少なくとも8時間はパソコンやら、iphone、テレビなどの画面をじっと見ている現代人の生活を振り返ると,真摯にものづくりにはまることは贅沢で幸せだと思えるようになりました。
一本のうちわ。その中に、昔の伝統工芸が反映されています。
さらに、この技術を絶やすことなく次世代へつなげる職人の思いを感じ、とても感心しました。(施嵐) 夏になると,手に持ち風をあおぐうちわ。
最近は,宣伝を兼ねて祭りや街頭で配られることも多くなりました。
タダでもらう機会が増えれば増えるほど,ひと風仰いだらゴミ箱へ捨ててしまうという全くエコでない行為を反省します。手にするものを選び,長く使う意識をもっと持たなくては。
「深草うちわは柔らかい風を運ぶのがいい」との佐々木さんの言葉が印象的でした。
(亀村)