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お茶から始まるエコライフ〜大谷英之さん

 

JR稲荷駅前にある本町通りを北へ2,3分歩いたところに大谷茶園がある。戦後間もない頃に店を構え,稲荷でずっとお茶屋を営む大谷英之さんに伏見とお茶のつながりやお茶のある暮らし,おいしいお茶の淹れ方などの話を伺った。

茶の生産地だった伏見

宇治市と接する伏見区では,昭和初期まで大亀谷周辺に茶畑が広がっており,主に玉露が栽培されていた。伏見で昔からあるお茶屋の多くは,かつてはお茶を生産しながら販売を行っていたそうだが,深草に陸軍第十六師団司令部が設置される頃になると茶畑は軍の施設にとって代わられていったため,販売を主に行うようになったそうだ。

お茶が人に与えた力

幼少期を長野で過ごした大谷さんは,春,夏,秋に京都のスポーツ店で働きつつ,冬は長野県の山小屋(ロッジ)の運営を兼ねつつスキーのインストラクターをしていた。やがて大谷茶園を継ぐと,それからはほぼ独学でお茶について学んだ。「親からというよりも,お茶で分からないことは京都市茶業組合の仲間に色々と教えてもらいました」。

店を継いでからしばらくの間は,自分の店よりも,稲荷の商店街全体を気にかけ,商店街活性化の働きかけをしていた。外国人旅行客で賑わう今の商店街とは違って,数年前まではどことなくさびしい商店街だったそうだ。

 

2011年3月に東日本大震災が起きた時,大谷さんは「お茶がみんなにできることは何だろう?」と思いを巡らす日々を過ごし,6月に茶業組合の仲間と新茶と抹茶の振る舞いをするために福島のある避難所へ向かった。

 

振る舞いを始めても,最初は人があまり来ず,館内アナウンスで呼びかけてもらううちにポツポツと人が来た。「避難してから温かいお茶を初めて飲んだ」という声を聞いたり,お茶を飲みに来た人同士が「あ!あんた生きていたのか!」と再会を果たす場面を目にした。3か月間同じ場所で暮らしていても,引きこもりがちな日々で気付かないこともあったのだろう。お茶で一息つく人は徐々に増えていき,2日間で350人にお茶を飲んでもらった。

 

振る舞いの最中にお茶を飲みながら会話が始まる様子を見て,水でもなく,コーヒーでもなく,お茶が必要とされている場所があることに大谷さんは気づいた。お茶屋だからお茶を売るということだけではなく,会話が生まれるとか,気持ちがスッとするとか,嗜好品である一方で普段の暮らしに大切なものであることなど,お茶の持つ可能性に気づいたことで,受け継いだ店から,お茶の魅力を伝えて行こうと思うようになった。 

 

心に効く急須で淹れるお茶

ペットボトルのお茶が普及するに従って家に急須がない家庭もあるそうだが,急須があれば「お茶飲む?」と周囲にいる人に声をかけてお茶を淹れるだろう。その時間がたった数分だったとしても,5分でもお茶をみんなで飲む習慣があれば会話が始まる。「お茶を淹れるということは,気軽に人のために何かをしてあげられる,小さな思いやりの心だと思うんです」。

 

ペットボトルという使い捨て容器を減らすという点で,急須で淹れるお茶は気軽に始めるエコライフとしても,コミュニケーションを促すツールとしても一役買っている。さらに,お茶本来の味や香りを楽しむことで一息ついてリラックスしたり,心が和むといった魅力も感じられるだろう。

おいしいお茶の淹れ方

お茶は毎日の生活に身近である一方,いざ急須でお茶を淹れる時,おいしく淹れるコツがよく分からなかったりする。例えば,「60度のお茶を注ぐ」との表示が記されている時,温度計を持たずにどうすれば良いだろうか。そう尋ねると,大谷さんから次のようなアドバイスをいただいた。「急須に茶葉を入れて,お湯が沸くのを待っていたりしませんか。そうではなく,まず,急須にお湯だけを淹れましょう」。

つまり,

 

1.急須に沸騰したお湯を淹れる

2.人数分の湯飲みを用意して,急須に淹れたお湯を注ぐ

3.人数分の茶葉を急須に淹れて,湯飲みのお湯を急須に戻す

 

こうしているうちに,お湯の温度がちょうど良い温かさになっているのだそうだ。

また,煎茶の場合45秒ほど蒸らしたら湯飲みに注いでよいとのこと。1分半もすると茶葉の苦みが出てくるのだそう。

「急須にお湯だけ。茶葉は後で」「茶葉を淹れたら紅茶のように時間を置かない」という心がけを教えていただいた。

地域や季節ごとに異なる味わい

日本茶とついひとくくりにしてしまいがちだが,日本茶には煎茶,玉露,抹茶,番茶,ほうじ茶,玄米茶,茎茶などの種類がある。そして,同じ茶葉でも産地によって味が異なる。自然の形態に合わせて,その土地に合った茶が生まれてきたのだ。京都では,南山城村や和束町は煎茶の産地であり,宇治や京田辺は玉露と抹茶の産地である。抹茶は,玉露と同じ茶葉を乾燥させて臼で挽いたものだそうだ。

 

また,宇治田原は日本の緑茶発祥の地とされるほか,古くから玉露や抹茶,煎茶などを総合的に栽培していたのが京都だった。それが,京都と言えば宇治茶,抹茶として知られる所以になっているのだろう。

お茶とエコな暮らし

「そうですねぇ。昔は茶殻を畳にまいて箒で掃くときれいになるといいましたが,畳も減ってきていますしねぇ。茶殻をお菓子やチャーハン,佃煮などの料理にすることもできますよ。」と茶殻の活用法から始まり,その土地その土地のお茶に親しんでみたり,5月の新茶をいただいて季節を楽しむことや,ペットボトルのお茶ばかりでなく,時には急須でお茶を淹れたり,外出時にはマイボトルにお茶を入れて持ち歩くなどしたら暮らしを見直すきっかけになるかもしれないと話が広がった。

 

色々な茶葉や淹れ方を試すように,自分なりに,日々の暮らしに取り入れやすいエコライフについてお茶を飲みながら考えてみてはいかがだろうか。

 

大谷茶園

濃厚な宇治抹茶ソフトや抹茶オレなどが店内で召し上がれます。

オリジナルの「神社茶(ジンジャーティー)」は生姜たっぷりでからだが温まるほうじ茶です。日本茶各種揃っていますので,ゆっくりご覧いただきながらお気に入りのお茶をお探しください。

住所:伏見区深草稲荷榎木橋町29

TEL: 075-641-2581

HP: 食べログのHP

facebook: https://www.facebook.com/ujicha.otani/

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