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向島の農地を次世代に受け継ぐ〜中嶋農園・中嶋直己さん〜

農林水産省の調べによると、2015年の日本の食糧自給率は39%と低く、2009年時点で既に農家の6割が65歳以上と農業の高齢化と後継者不足が課題となっている。今回は、京都市内有数の農地を誇る伏見区向島で農業を営む若手農家、中嶋農園4代目の中嶋直己さんに、今取り組んでいることを中心にお話を伺った。

 

命をつなぐ農を継ぐ

中嶋さんは東京で民間企業に勤めた後、2008年に家業を継いだ。「28歳になり、仕事にも慣れて来た頃で新しい刺激を求めていたんでしょうか。どんな洋服を着ても生きられるけれど、食べ物がないと生きられない。命に直結する仕事としての農業をやってみたいと思いました」と語る。

実家の向島に戻り「日本の農業を変えるぞ」と気合いを入れていた矢先、訪ねた滋賀の農家から「農業を変える前に、今君は自立できているのか」と聞かれて、親に経済的に頼っている状況が恥ずかしくなったそうだ。当時結婚したばかりだったので、まずは経済的に自立することを目指し、3年かけて自分で生活できるようになった。

自立に向けて試行錯誤している間、農作業だけでなく農業関連の展示会などに積極的に出かけた。様々な出会いをもたらした中で、京都すばる高校と出会った。商品企画を学ぶ生徒達が稲刈りを体験しに来た時、中嶋さんのお母さんが作った黒米のおにぎりを生徒達が「おいしい、おいしい」とほおばった。やがて、その味に感動した生徒達が、中嶋さんと一緒に「武士米」というブランド米を生み出したのだ。「武士米」という名は、かつてこの地にあった向島城に住んでいた徳川家康が、家来たちに「黒米を常食とせよ」と伝えたことに因んでいるそうだ。

 

多角的な農業経営を目指して

中嶋さんは2015年10月に中嶋農園を株式会社にした。社員は父と中嶋さん、従業員1名の3名。それが、中嶋さんなりの農業を続ける道の選択だった。

「例えば、『明日から米しかないから、米だけ食え』と言われても、家族だから我慢できるかもしれません。でも、それでは農業は続かない。農業の担い手がなく、高齢化している中、もしかしたら家族経営ではなく組織経営のほうが続くのではないかと思いました」。

 

中嶋農園では主に、取引先のニーズに合わせて契約栽培でキャベツやレタス、枝豆などの野菜を育てる他、米、酒米、黒米を栽培するほか、農業経営の一環で、種智院大学食堂の運営に携わっている。弁当や総菜を提供する「遊食邸」を営む「有限会社京フーズ」とともに、ランチタイムの学生や地域住民への食堂運営や、市内で販売する弁当などの調理を行っている。

 

取材中、「継いだ時に一番大変だったことは何ですか」と訪ねてみた。少し間があって「親との考え方の違いでしょうか」。一緒に働く父・繁一さんは団塊の世代で、農業1本で家族を養いがんばって今までやってこられた。なので、中嶋農園として株式会社にして、人を雇って農業を行うという考えにはしっくり来なかったそうだ。中嶋さんが農業ビジネスなど新しい農業の可能性を考え実行しつつ、父親から栽培を学ぶ。「農業は、何より経験が大切なので父の力は大きいです」。

 

春になる4月、5月には午前3時から7時半まで延々とレタスとサニーレタスを収穫する。気温が高くなるとしおれてしまうため、涼しいうちに収穫するそうだ。このように自然と向き合い、気候の変化に対応していく農業は簡単なことではない。中嶋さんは祖父が話していた「この農地は自分のもんやと思ったことがない。先祖から受け継いだものだから、次の世代につないでいく」との言葉を胸に、日々前向きに農に向き合っている。育てている野菜に「こうしてあげたらいいかな」と思って、試して、実際に野菜が元気になると「応えてくれたんだなあ」とうれしく感じるのだそうだ。

 

向島の野菜を向島で食べる

日本では、例えばじゃがいもや玉ねぎは北海道で大量生産している。このことが悪いというわけではないが、災害が起きたときに一極集中では農作物と暮らしの影響は大きくなり、安定した供給につながらないのではないか。むしろ、地域内であらゆる食材を供給できることが、地域の安定につながるのではないか、と中嶋さんは考えて、地域で育てた野菜を地域で消費する「地産地消」が広がることの良さを感じている。「伏見に暮らす人たちが伏見で生産されるものを食べて、消費してもらえると、僕たち伏見の農家もまた作ることができます。」

 

2016年10月から、「京都・向島農園」のメンバー4人を中心に、毎月第一日曜日に、食堂で野菜市を始めた。「ゆくゆくは近隣農家が集まる市を毎日開きたい」と意気込む。種智院大学の側に観光農園を開き、旅行会社と提携して国内外の観光客と農業を結びつける事業にも挑戦する。このように、中嶋さんは向島の地にしっかりと根を張りながら、時代に合わせた農業のやり方を見つける形で受け継いだ農地を守っている。 

 

 

取材先情報

株式会社 中嶋農園

伏見区向島鷹場町3番地2

TEL/FAX 075-632-8013

HP: http://nakajima-nougyou.com

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