食事のおいしさを引き立てる酒づくり〜山本本家
伏見桃山駅から徒歩10分のところにある酒造会社「山本本家」は、延宝五年(1677年)に創業してから300年余り経た今も、芳醇な香りを漂わせながらお酒をつくっている。
酒づくりの過程やエコとのつながりを知りたくて、山本本家取締役の山本晃嗣さんにお話しを伺った。
――酒づくりに関わったきっかけを教えていただけますか?
10代目の祖父と11代目の父で酒造りを営む家に生まれました。長男ということもあり、物心ついた頃から酒づくりに携わるんだなぁと思っていました。小学校の文集にも「将来は社長になる」と書いていたほど幼い頃から人生の選択に迷うことなく、まっすぐ酒づくりの道を進んでこられたのは幸せなことだと思っています。
――酒づくりの過程で一番難しいところは何ですか?
酵母の特徴を見極めることです。日本酒を作るときは酵母と呼ばれる微生物を上手に働かせて米を発酵させます。その発酵の進み方は、全く同じタンクで同じ材料を使っていても違うんですよ。そのため、酒づくりを担う杜氏や蔵人(くらびと)と話し合いながら、その年その年の出来具合や酵母の特徴をつかんでお酒をつくります。
機械はあくまで道具であり、蔵人たちの長年にわたる経験が良い酒造りに欠かせません。
――山本本家の特別なところは何ですか?
一般的に、食前酒、食中酒、食後酒というお酒の種類がある中で、山本本家では料理を引き立てる「食中酒」としての酒造りの姿勢を大事にしています。
和食に合う酒をつくると同時に、和食とともに日本酒のおいしさも堪能していただけたらという思いで「鳥せい」を1975年に開店し、鶏料理と日本酒を提供しています。お酒を楽しむときに、食事も大切にしてもらえるとうれしいですね。
――これからやってみたいことはありますか?
平成26年に初めて「蔵ジャズフェスティバル」という、お酒を片手にジャズを聴くイベントを伏見のまちおこしの一環で行いました。平成27年度も、お酒とジャズを一緒に楽しめるこのイベントを行う予定です。地元地域が活性化するように、伏見の人たちとお酒で繋がればいいなと思っています。
――蔵ジャズフェスティバルで飲んだゆず酒は飲みやすくておいしかったです。
「柚子想い」は純米酒ベースの柚子の天然果汁を使ったリキュールで、アルコール分7度と低めのお酒です。誰もがお酒に強いわけではありませんし、実は、私自身お酒は強くないんですよ。だからこそ、量ではなくおいしいお酒を楽しんで飲んでいただけたらいいなあと思います。こうして「飲みやすかった」とか「おいしかった」と言っていただけると、作り手としてとてもうれしいです。
――酒づくりに使う水について教えてください。
今までずっと同じ水を使っています。昔は地面までボコボコと湧いていましたが、今は地下で湧いている水を引いて使っています。伏見の地下水は琵琶湖の水量に匹敵するそうです。水が良いから伏見では酒づくりがさかんになったのでしょう。
伏見のまろやかな水をみなさんに飲んでいただけたらと、鳥せいの隣にある「白菊水」という井戸から誰でも自由にお水を汲めるようにしています。ささやかなことかもしれませんが、地元地域に貢献していきたいです。
――米について、こだわりはありますか?
米の産地は造るお酒によって異なり、今は京都、福井、滋賀、兵庫で採れる米を使っています。なるべく地元の米を使って、地元のお酒をつくるという地産地消のやり方を大事にしていきたいですね。平成26年から伏見で採れた「祝米(いわいまい)」の酒もつくっています。京都では抹茶や京野菜などの特産品がありますが、「お酒の地産地消」もまた進めていきたいです。
――瓶はリユースですか?
最近はほとんどがワンウェイ(1回のみ利用)瓶です。
東京や静岡に500mlの共通瓶があるそうですが、京都ではほとんど見たことがありません。
180mlおかん瓶など一部の瓶が回収されていますが、瓶はなかなか返ってきませんし、回収はだんだん少なくなっています。
――私たち若者へのメッセージをお願いします。
「努力すれば良い」のではなく、努力の結果をどう受け止めるかを大切にしてください。
努力するのは当たり前ですし、人はみんな努力しています。努力そのものを認めてもらおうとするのではなく、努力して、その結果が良ければ一途に頑張り、悪ければ反省し、やり直していきましょう。
みなさんの人生はこれからです。やりたいこともいっぱいあると思いますので、努力を積み重ねてみなさんのやりたいことに精いっぱい取り組んでください。
取材後記
今回のインタビューから、会社は単なる事業者であるだけではなく、その地域の活性化や文化の継承や普及などに対して、不可欠な担い手だと気づきました。地域活性化の面では、例えば「蔵ジャズフェスティバル」の企画運営など、私たち学生への期待の言葉も取材中にいただきました。これから積極的に地域活動に参加していきたいです。
取材:張心璐 劉骥威
同行:まちづくりアドバイザー 佐藤友一、亀村佳都
株式会社 山本本家
〒612-8047
京都市伏見区上油掛町36-1
TEL (075)611-0211(代)
FAX (075)601-0011番
Homepage: http://www.yamamotohonke.jp/