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農園のある福祉施設 (深草福祉農園)



伏見の地図を眺めていて目に入った、「深草福祉農園」という文字。
以前、農園で高齢者デイサービスのボランティアを少しだけやっていたことがあったので、
どんなことをしているんだろう…?と個人的にずっと気になっていました。



JR藤森駅から山手の方向へ住宅街を抜け、やや奥まったところに、深草福祉農園はあります。伺ったのは2月の寒い日で、利用者さんたちは室内で箱折り作業をされていました。農園での作業を中心的に担当していらっしゃる、小野直樹さんにお話を伺いました。



なぜ、農園なの?


深草福祉農園は、平成7年(1995年)に開設されました。建物の中にぎゅぅぎゅぅと押し込まれて過ごすのではなく、外でのびのび過ごしてほしい、という思いから、農園での作業が取り入れられています。


小野さんは農業経験があるわけではなく、農業に興味があって来たわけでもなかったのですが、地主で農家でもあった初代施設長や、近隣の農家の方々に教えてもらいながら、野菜の世話を覚えていったそうです。

深草福祉農園が平成7年に設立された当時、周りにはまだ畑が多く、農家さんも多かった藤城地区。農業を教えてくれた近隣の農家さんたちは、初代施設長の幼なじみだったとか。すっかり住宅街となった今の藤城地区の一角にある深草福祉農園は、都市近郊農村だった当時の面影を残す数少ない場所なのかもしれません。



農園での作業



知的障がいをもつ利用者さんたちは、一人ひとり障がいが違うのですが、総じて「いつもある」こと、「何度でもある」ことをくり返しやるのが得意。


だから、天気や季節によって作業の内容が変わる農作業は、利用者さんたちが得意なことばかりではないようです。「きゅうりを収穫してきて」と頼んだら、小さいのから大きいのまで、全部とってしまったこともあるとか。

野菜は生き物ですし、大事な商品なので、悠長なことは言っていられない。「冒険できない作業や、急いでやらなければいけない作業は、自分でやってしまうこともある」のだそうです。農園でのびのび過ごしてほしいとは言え、確実に収入になる箱折り作業が中心になるのは、仕方がないことなのかもしれません。

それでも、いつも何か仕事があるのが、農作業のいいところ。

石ころを拾うだけでも意味がある」と小野さんはおっしゃいます。

農園を見せていただくと、隅っこに何やらあやしいタンクが…


雨水を貯めるタンクです。水やりには雨水を利用しています。経費も水資源も節約できて、エコノミー&エコロジー。施設ができる前から、畑の一角にはため池があり、雨水を利用していたそうです。現在では事故を防ぐためにため池は埋められ、かわりにこのタンクが活躍しています。

育てた野菜の販売



収穫した野菜は、毎週火・金曜9:00~10:30、深草中学校南側の駐車場にある直売所で販売しているほか、藤城小学校の夏祭りと餅つき、深草ふれあいプラザ、あじさい祭りなどの地域イベントで出張販売しています。



深草福祉農園(社会福祉法人)の理事の中に、地域の女性会会長をされている方がいます。彼女はほとんど毎日やってきて、利用者さんと一緒に過ごしたり、農作業をされたりするそうです。野菜がたくさん収穫できた時には、地域の会合で売り歩いてくださるというから、農園と地域をつなぐ“かすがい”です。利用者OBの方のお母さんで、今も通ってくださる方もいらっしゃるそうです。力強い応援団ですね。

また、川端七条の昭和保育園と、墨染保育園の園児たちが、毎年農園で芋掘りを楽しむのが恒例行事となっています。昭和保育園とは、園長さんがご近所だった縁、墨染保育園とは、職員さんのお孫さんが通園されている縁でのつながりだそうです。個人のつながりを大切にしておられるのだな、と感じました。

ここに農園があるということ



最近では、障がい者施設が農園を併設する例は少なくないといいます。精神障がいを持った方の就労先として、農業を起こそうという例もあるそうです。

視察に来たり、問合せてきたりする方々の関心は、やはり「利用者さんがどう関わるか」。



小野さんは、そういう問い合わせにはあえて「しんどいですよ。」と答えるそうです。「暑いし寒い。(利用者さんたちは)よろこんで農作業をする、というわけではない。」


ただ、「農業は、不確実な仕事。そのぶん、いいものが採れたらすごくうれしい。」

小野さんは実感をこめてそう言います。

そして、「農園がないこの施設って、ありえますか?」という質問に、
「ありえないですね。ハコモノ施設だけではなくて、「ここには農園がある」と言える。看板があるっていうのは、強いです。」と答えてくれました。

「その看板って、誰にたいする看板ですか…?」
「自分に対して、かな…。ありふれた、陳腐なものではないという、誇りというか。」


小野さんは、農業をやりたいと思ってここへ来たわけではないけれど、“ご縁”で17年間、ずっとこの農園を守って来られました。その日々は美談ばかりではなく、汚いこともしんどいことも多い。それでもずっと続けてきたということの意味を、考えさせられます。



とつとつと語ってくださる中、「創設者の思いをむだにできない」「自分なりに、安全・安心ということを目に見える形で追求したかった」といった言葉に、野菜づくりへの強い思いと、誇りを感じました。

帰り際に、10周年記念で植樹して育てた夏みかんをいただきました。
とても酸っぱくて、さわやかな味がしました。


(記:清水万由子)

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